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Musical Instruments & Gear

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Musical Instruments & Gear ― 連載第7回

Amulech AL-9628D ー 初めての USB-DAC 購入

2016年5月4日 
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 自宅でミックス作業を行うのにモニターの役割がとても重要であることはそれなりに認識しているつもりなのだが、しかし液晶モニターのように測定ソフト使いカラー調整を行って自分なりに納得することに比べ、耳で聞く音の正しさを客観的に測って納得するのは非常に難しい。液晶モニターがその機器単体とせいぜい環境光の調節で色彩の表現を追い込めるのに対し、音響方面はスピーカーやアンプ、ケーブルから電源という幾つもの機材の無限の組み合わせを考慮せねばならず、そもそも部屋の形状や材質という自分ではどうしようもない要因も大きく絡んでくる(賃貸アパート暮らしなら尚更)…と、ここまでは一応義務的に考えておいて、もう考えるのを止めた。そもそも、本当に正確な真のリファレンス機が存在するのならば、たった一つの機材が存在すればよく、現状のように各社メーカーから市場に溢れんばかりの商品が注ぎ込まれるのはあり得ないのではないか。皆、何だかんだ言って迷い続けていて、そして自分の耳を信じて納得しているのだ。

ちょっと音楽好きな人に合わせる

 考えるのを止めた途端に気楽になった。幾ら資金を投入したところで決して満足出来ないピンの方向へ無謀にも突き進むよりは、平均的な世間一般よりはほんのちょっぴりだけ音楽好きな人が使っていそうなキリの機材環境で試行錯誤する方が楽しいに違いない。そう、悩むことはせずただ楽しみたい。
 というわけで、当面モニタースピーカーはFOSTEX PM0.4n、ヘッドフォンはSONY MDR-1Aと、これまでと変わらないプアな再生環境で買い替えしないことにしたのだが、ここ数年「USB-DAC」という言葉を頻繁に見かけるようになったことが気になっていた。
 音楽作りを趣味にしている人なら、今世紀に入る以前からオーディオIFを通して音を聞く事が当たり前で、僕の場合でも古くはQuadra700でProToolsの前身に当たるNuBUS仕様のボードからI/O経由で使っていたり、それからMOTUのFireWireオーディオIFを使っていたから、外部DACはごく当たり前の存在で特別に意識することも無かった。しかし近年、iPhoneやPC搭載のイヤフォンジャックのものとは明らかにグレードの違う音が得られるということで、USBケーブルで外部DACに音声データを渡し、DAC経由で音楽リスニングを楽しむ音楽愛好家が急速に増えて来たらしい。現在使用しているUniversal Audio 初代Apolloのヘッドフォンの音とはどう違うのか、遅まきながら手を出してみることにした。

Amulech AL-9628Dをチョイス

 そもそも、USB-DACに興味を持ったのは下記の記事を読んだ事がきっかけだが、OPPO OPP-HA1はあまりに高級すぎて、ちょっぴり音楽好きくらいな人が手を出すような価格設定じゃない。でもちょっと調べてみるとUSB-DACは既にピンからキリまで非常に多くの製品で溢れていて、どれにすればよいか迷うくらいの状況にあることが判った。

 アチコチのレビューを読み漁り、価格と購入後のユーザー満足度を照らし合わせて今回試験的に購入することにしたのは、Amulechという全く聞いた事もない日本メーカーのAmulech ハイレゾ音源対応 PCM 96KHz/32Bit&DSD 2.82MHz(88.2KHz/32Bit) USB-DAC「AL-9628D」という製品。選択ミスしたとしてもギリギリ自分を許せる範囲の価格設定だったこと、さらにとりあえずDSDの再生も出来るということが選定理由。

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 秋葉っぽいシールが貼られた黒箱で届く。

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 内容は本体に取説、ACアダプターとUSBケーブル、さらにWindows用ドライバの入ったUSBメモリ(8GB)まで!もちろんMacはドライバインストールなんかしなくても認識する。

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 コンパクトで軽いが、アルミ製の筐体でしっかりしており、安っぽくは無い。

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 背面はこんな感じだが、近年珍しい「Made in JAPAN」の文字。ちなみにAmulechは新潟の会社らしい。

セットアップは簡単

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 作業環境への導入はいたって簡単。MacとUSBケーブルで繋ぎ、オーディオの出力装置を「USB Audio Interface」に設定し直すだけ。これで音声は全てAL-9628Dを経由するから、フロントパネルの端子にMDR-1Aを繋げれば前面のボリュームで音量を調整しながらリスニングを楽しめる。また、背面のRCA端子からアンプ内蔵のFOSTEX PM0.4nに繋げれば、耳を酷使することなく長時間のモニターが可能。

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 この時注意すべきは、残念ながらリアパネルのRCA端子には前面のボリュームが効かないということ。AL-9628Dからは最大音量が常時出力されるので、スピーカー(もしくはアンプ)のボリュームは事前に絞っておく事。あくまでフロントのボリュームつまみはヘッドフォン用なのだ。だから音量調節はスピーカー(もしくはパワーアンプ)の方で行うことになるのだが、それでは利便性に劣るので、これまで愛用してきたFOSTEX ボリューム・コントローラー PC-1eをパワード・スピーカーの手前にかませる。AL-9628DとPC-1eの接続にはステレオミニプラグ←→RCAピンプラグ変換ケーブルを使用。これで手元で素早く音量調節可能。

聴き比べての感想

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 オーディオの出力先を「Mac内蔵のライン出力(ヘッドフォン出力)」「USB Audio Interface」「Universal Audio Apollo」と交互に切り替えながらiTunes内のライブラリを自分の耳基準で聴き比べてみた。ユーティリティーのAudio MIDI設定では下図のようにセッティングした。

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 まず、「Mac内蔵のライン出力(ヘッドフォン出力)」はやはり簡易装備レベルの音質で比べ物にならない。これまでPCに直接ヘッドフォンを繋げていたユーザーがレビューで絶賛しているのも当然、音の輪郭や解像感がワンクラス確実にアップする。なので僕の手持ちの機材ではAL-9628Dと初代Apolloの比較になる。Apolloのヘッドフォン出力は、ハイもローもかなり突き出ていて良くも悪くもエネルギッシュ、ローなんてMDR-1Aで聴くとボヨンボヨンして「ちょっと盛りすぎなのでは…」と感じるのだが、AL-9628Dの方はすごく上から下までフラットで味付け無し、全然忙しくない感じ…というか、初代Apolloのヘッドフォン端子より位相感が整っていて定位もしっかり取れている気がする。色付けの無い、ピュアな状態で出力されていると信じられる音で、ミックス作業で使うならAL-9628Dの方が音像を掴みやすいんじゃないか。もうひとつ、自宅の再生環境ではボリュームを最大に上げてもAL-9628Dを発生源とするようなノイズは全く聞こえなかった。

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 iTunesのロスレスやwavファイル、今回は音源を持ってないから試していないけれどDSD再生は問題ないとして、MOTU DPではハードウェアドライバの設定で「USB Audio Interface」を選択しておけば、AL-9628Dから作業中の音をモニター出来る。普段デフォルトにしている32bit/48KHzの設定で問題なく再生できた。
 結論としては、あくまで「キリの方で合わせる」という主旨であれば、このAmulech AL-9628Dと普段使いのヘッドフォンの組み合わせで作業するのはアリという気がする。他のDACと聴き比べていないから何とも言えないが、現時点で不満な点は全く無い。むしろ音の輪郭が以前よりは良く見えるような気がするから、iTunesにため込んできた過去ライブラリを聞き直すのが普通に楽しい。また、AL-9628Dの音が原音に忠実でフラットだとすれば、ヘッドフォンやパワード・スピーカーを個性で選ぶ楽しさも味わえるだろうと思う。つまり、正確なモニター環境の構築には程遠いままなのだけれど、最近bandcampなどを聴いていて思うのは、「正確な音かどうかなんて、もはや全く気にならない」ということ。プロフェッショナルからセミプロ、さらにズブの素人まで玉石混交で音質を言えば全くピンキリだが、音楽を楽しんでいることが伝われば僕も単純に楽しいし、それでイイんじゃないか(Mixが明らかにテキトーでも、かえってそれが面白い)。まあ、とにもかくにもこれが¥15,800で手に入れられるのだ。ちなみにPCM 384KHz/32Bit、DSD2.8MHz&DSD5.6MHz、さらにDSD11.2MHzまで対応している上位機種の「AL-38432DS」も存在するのだが、やっぱり¥15,800の訴求力は強かった。

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